#14

木の内装と間接照明を組み合わせた寝室環境による睡眠の質改善効果と疲労軽減効果

     睡眠の質の悪化は心身の不調を引き起こし、日中の作業能率の低下(疲労)および生活の質(QOL)の低下をもたらすことから深刻な問題と捉えられている。
     本研究では、木の光学的特長(青色波長成分を多く吸収する)を活かす一手法として、木を間接照明の反射板として利用する方法に着目し、木の内装と間接照明を組み合わせた寝室環境による睡眠の質改善と疲労軽減効果について検討するため、健常成人男性を対象とした医学的試験を実施した。
     その結果、この組み合わせは、就寝前に適した副交感神経優位な状態へスムーズに移行させる寝室環境をつくり、上記の機能性を有することが示唆された。

    掲載情報の概要

    ウッドデザイン賞2015 奨励賞(審査委員長賞)受賞
    ライフスタイルデザイン部門

    概要

     本研究では、木の光学的特長(青色波長成分を多く吸収する)を活かすことのできる一手法として、木を間接照明の反射板として利用する方法に着目し、木の内装と間接照明を組み合わせた寝室環境による睡眠の質改善と疲労軽減効果について検討するため、健常成人男性を対象とした医学的試験を実施した。
     その結果、木の内装と間接照明の組み合わせは、就寝前に適した副交感神経優位な状態へスムーズに移行させる寝室環境をつくることにより、睡眠の質を改善し疲労を軽減させる機能性を有することが示唆された。

    掲載情報の概要

    杉野友啓、山田浩嗣、梶本修身:木の内装と間接照明を組み合わせた寝室環境による睡眠の質改善と疲労軽減効果、日本疲労学会誌 第11巻 第1号 2015年6月、p. 95(第11回日本疲労学会学術集会ポスター発表)
    杉野友啓、山田浩嗣、梶本修身:木の内装と間接照明を組み合わせた寝室環境による睡眠の質改善と疲労軽減効果、日本補完代替医療学会誌 第12 巻 第2 号 2015 年9 月、pp. 55-64

    試験期間  : 2014年9月17日~2014年10月11日
    実証実験場所: 株式会社総合医科学研究所 江坂リサーチセンター
    実施体制  : 住友林業株式会社 山田浩嗣
            株式会社総合医科学研究所 杉野友啓
            大阪市立大学大学院医学研究科疲労医学講座 梶本修身

    実証実験の背景

    背景

     平成19年に厚生労働省が行った調査では、国民の5人に1人が何らかの睡眠障害を抱えていることが示された(図1)。睡眠障害は心身の不調を引き起こし、日中の作業能率の低下(疲労)および生活の質(QOL)の低下をもたらすことから深刻な問題と捉えられている。

    図1 睡眠の質の状況(厚生労働省:平成25年度国民健康・栄養調査より作成)

     睡眠に影響を及ぼす要因の一つとして室内環境が挙げられるが、大きく物理的要素、化学的要素、生物学的要素、精神的要素の4要素で構成される。これまで、寝室環境による睡眠の質改善に関する報告はいくつかなされているが、複数の要素を伴った寝室環境による報告はほとんどないのが実情である。
     このような背景から、物理的要素に精神的要素が合わさった木の内装と間接照明を組み合わせた寝室環境により、より効果的な睡眠の質の改善と疲労の軽減ができれば、その意義は大きいと考えられる。

    仮説

     木のもつ光学的特性(木の分光反射率など)のひとつに、可視光や赤外線の反射が大きいことがある。 すなわち、紫・青色波長成分を多く吸収し、赤色波長成分を多く反射するため、木は、温かみを感じることができ、目に優しい材料であると言える。(図2)

    図2 木材表面の分光反射率(山田浩嗣・小山恵美:寝室間接照明における反射素材がヒトの睡眠に及ぼす生理的・主観的影響、日本建築学会大会学術講演梗概集(D-1)、pp.135-136、2008)

     一方、睡眠関連ホルモンであるメラトニン分泌が青色波長光によって抑制され、目ばかりでなく、全身への影響があると言われている。(図3)

    図3 青色波長成分のメラトニン分泌影響(G. C. Brainard他、The Journal of Neuroscience, 21(16)より引用)

     このような背景から、木の内装と間接照明を組み合わせた寝室環境により、より効果的な睡眠の質の改善と疲労の軽減に関する医学的なエビデンスが得られれば、木の利用価値を広める一手法となりうると考えた。

    実証実験の概要

    試験デザイン

     試験は3試験区クロスオーバー試験とし、被験者をA・B・C3つのグループに分けた。説明会および同意取得の後、第一夜効果を排除するため、慣らし睡眠日を設けた後、原則として1週間隔の同一曜日に3回宿泊させ、条件1、条件2および条件3の3試験区を設定し比較検討した(図4)。

    図4 試験デザイン

     被験者には、試験期間中、19時に集合してもらい、血圧測定後、決められた食事を取ってもらったあと、21時に各試験室へ入室・休憩、22時に就寝してもらい、翌朝6時に起床後、7時に睡眠質問票への記入、ATMTの評価をしてもらった。(図5)

    図5 一日のスケジュール

    試験設備

     試験設備は下記の3条件とした。(写真1)
    試験室は約12.4 ㎡(幅2.730×奥行4.550×高さ2.550 mm)で、試験室の中央奥にカウチベッド(幅780×長さ1910×高さ345 mm)を設置し、敷き布団1枚、掛け布団1枚、毛布1枚を使用した。カウチベッドの横にサイドテーブル(日本ベッド製造(株)、ナイトテーブルNo.269)を設置し、条件2および条件3についてはスタンドライト(大光電機(株)、DST-34647)をサイドテーブルの上に置いて使用した。

    写真1 試験設備状況

    被験者の管理

     被験者にはそれまでの食生活および運動などの日常生活を変えないように指示し、試験期間中は毎日、睡眠時間、就業時間、食事内容、アルコール摂取量、医薬品の使用状況および体調等の生活状況を日誌に記録させることにより日常生活を把握した。ただし、栄養解析は実施しなかった。食事をコントロールするため、検査日前日の夕食は約900 kcalの同一の弁当を摂取させ、その後は飲水を除いて絶食とした。
     被験者の服装はTシャツおよび上下スウェット(長袖、長丈)に統一し、靴下は履かないように指示した。

    評価の種類・方法

    評価種類評価の方法概要
    物理評価分光放射照度の計測各条件の試験室内の分光放射照度をSD-2000(Ocean Optics社製)を用いて測定した。測定箇所はベッド中央上30 cmとした。それぞれの条件でのベッド上中央の水平面照度を一定(40 lx)となるように調光制御した
    心理評価セントマリー病院睡眠質問票質問紙を用い、各試験設備での起床後、以下の質問項目に回答してもらう。 問1:あなたの睡眠は?(7段階:「たいへん浅かった」~「深かった」) 問2:あなたは何回目を覚ましましたか?(7段階:0~7回以上) 問3:昨夜はどれくらい眠れましたか?(6段階) 問4:今朝、起床後、どれくらい頭がすっきりしていましたか?(6段階) 問5:昨夜の睡眠にどれくらい満足していますか?(5段階) 問6:早くめが覚めて再び眠りにつけず困りましたか?(2段階) 問7:昨夜眠りにつくのはどれくらいむずかしかったですか?(4段階)
    生理評価睡眠計ベッド下に設置することにより、 呼吸数・脈拍・体動を測定。 睡眠の深さ・起床・就寝の判定を計測する。
     自律神経機能評価(アクティブトレーサ)体に電極を直接、貼り付け、 就寝前・就寝中の心拍数・活動量を測定。 自律神経活動を計測する。
    作業能率評価ATMTによるエラー数コンピュータのディスプレイ上にランダムに表示された1~25の数字を、1から順に指で押し、1つ1つの数字を押すまでの時間を計測することで、疲労の蓄積と脳機能の変化の関係を評価する。

    実証実験の内容

    物理評価

     条件1ではLED照明の特徴の2つのピーク(青色波長と黄色波長)を生じている。条件3では条件2に比べて、緑色波長成分が少なく、赤色波長成分が多くなる(図6)。条件3では、LED照明の反射材として、木を用いているため、LED照明から放射される青色発波長成分が、木の表面により吸収されていることを示していると考えられる。

    図6 分光放射照度測定結果

    心理評価

     セントマリー病院睡眠質問票による主観的睡眠評価では、試験設備間の比較において、条件3は条件1と比較して、早朝覚醒の有無の有意な減少、中途覚醒度の低下傾向、熟眠感の上昇傾向がみられた。条件1と条件2との間、条件2と条件3との間においては、いずれの項目においても有意差および傾向はみられなかった(図7)。

    図7 セントマリー病院睡眠質問票「熟睡感」

    生理評価

     睡眠計による睡眠状態の評価では、試験設備間の比較において、入眠潜時、睡眠効率、総睡眠時間、覚醒回数、中途覚醒時間、平均活動量のいずれの項目においても、各条件間で有意差および傾向はみられなかった。代表して、中途覚醒時間の結果を示す(図8)。

    図8 睡眠計(中途覚醒時間)測定結果

     アクティブトレーサによる自律神経機能評価では、試験設備間の比較において、いずれの項目においても、各条件間で統計学的な有意差および傾向はみられなかったが、条件3は就床前30分間のLF/HFが4.74 ± 1.59であり他の条件よりも低値、HFが147 ± 123 msec2、CVRRが4.48 ± 1.41%であり他の条件よりも高値であった。
     心拍数について、条件2と条件3は就床前30分間がいずれも75 ± 6 bpmであり、条件1の78 ± 8 bpmよりも低値であった。各試験設備内の経時変化において、試験室入室前30分間と比較して、就寝後30分間の心拍数について、条件1がp<0.05、条件2がp<0.01、条件3がp<0.001で有意な低下がみられた(図9)。

    図9 アクティブトレーサ測定結果

    作業能率評価

     ATMTによる作業能率評価では、試験設備間の比較において、条件3は条件1と比較して、エラー数(C課題-A課題)の減少傾向がみられた(図10)。

    図10 作業能率評価測定結果

    結論

     木の内装と間接照明の寝室環境が入眠に適した副交感神経優位な状態へスムーズに移行させ、睡眠の質を改善すること、さらに起床時の眠気および疲労感を軽減することが示唆された。
     また、睡眠の質を改善することにより、作業能率を向上(疲労回復を促進)する可能性が示唆された。
     一方、間接照明のみでは起床時の眠気を軽減することが示唆された。
     木の内装と間接照明は、就寝前の入眠に適した環境づくりに適した設備であることが示唆された。

    掲載情報の詳細

    論文元/参考文献1
    ウッドデザイン賞2015 全受賞作品 https://www.wooddesign.jp/2015/works/
    論文元/参考文献2
    日本補完代替医療学会誌 2015 年 12 巻 2 号 p. 55-64「木の内装と間接照明を組み合わせた寝室環境による睡眠の質改善と疲労軽減効果」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcam/12/2/12_55/_article/-char/ja/
    JWDA記事編集者
    根本孝明
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    住友林業株式会社/お問い合わせ
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