作品概要　

　私たちは普段、建築・土木用に用いられる木材、木質材料、接合部、構造部材（耐力壁や水平構面など）の強度性能や変形性能を明らかにするための研究を行っていますが、実際にそれらの部材を使って建てられた建物の性能検証を行う機会はこれまでありませんでした。そこで、建物としての性能検証を行うためのモデル木造住宅を建築することとしました。建築に際しては設計コンペを実施して、部材の選択だけでなく構造安全性の確保や住宅のデザイン、省エネ等も考慮し、さらに10年先を見越した新しい技術を積極的に取り入れたものを応募作品の中から選びました。使用されているほとんどの部材は建築前に密度や弾性係数を測定しています。建築当時の性能が把握できているモデル木造住宅だからこそ、経年変化を追跡することができます。また、建物でなければ不可能な、例えば内装材の異なる部屋に人が入室したときの生理応答の違いをみる実験や、２階で床衝撃音が発生した時に1階に居る人がどのような心理・生理反応を示すかを調べる実験などが可能になりました。この住宅を用いて、木材・木質材料の開発に資する研究並びに木質構造や居住性能に関する研究の発展のために重要なデータを蓄積していきます。

モデル木造住宅に組み込まれた技術の例

　24mm厚の構造用合板を釘打ちした耐力壁を採用し、耐震性を確保するために建築基準法に定められた必要壁量の2倍以上の耐力壁を設けました。内壁は伝統的な工法である竹小舞土壁の上に漆喰仕上げとし、快適な空間を創出しています。水平構面には28mm厚の構造用合板を使用して剛床としています。屋根の上に設置した太陽光パネルの発電で4人家族の電力をすべて賄うことができます。基礎を高くして腐朽や蟻害がないか点検しやすい床下とし、日本住宅性能表示基準における「劣化の軽減」において等級３以上の性能が担保できるようにしています。冬、室内に入る日射で蓄熱土間を暖め、その熱が放出されることにより暖房の補助としています。