人間の快適性に及ぼす木材の触覚、視覚及び嗅覚刺激の効果の解明(2015年受賞)・「人を測る」ことにより「木の良さ」を科学する(2018年受賞)
人間にとっての「木材の良さ」を「人を測る」すなわち人間の生理指標を測定することにより解明する研究を進めています。
人間にとっての「木材の良さ」を、木材の物理特性を計測し、測定値から説明する従来の研究から発想を逆転させ、「人間」を測ることにより解明する研究を先駆的に進めています。まず、血圧や脈拍、脳を流れる血液などの動態から、木材が嗅覚を通じて人をリラックスさせることやパソコン作業中のストレスを軽減することなどを明らかにしました。さらに木材の見た目や手触りによる影響についても検討を進め、手触りの影響について嗅覚と同様の手法で評価できる可能性を見いだしました。さらに、木材の触覚、視覚、嗅覚刺激が人間の生理面・心理面に及ぼす影響を評価する手法の確立を目指して研究を進めました。触覚刺激については、木製手すりを握った際に生じるストレスは、金属など他材料と比較して低いことを示す結果が得られました。視覚刺激については、材面の全体的あるいは局所的な色コントラストが視線の引きつけやすさと密接に関係があることや、木目模様の強調や色むらなどを付ける加工をすると視線が集まる場所や時間が変化することを明らかにしました。また、嗅覚刺激については、だ液中の抗ストレスホルモン代謝産物であるDHEA-s(デヒドロエピアンドロステロン硫酸抱合体)が新たな評価指標として有望であることがわかりました。得られた成果は、Journal of Wood Scienceや木材学会誌に論文掲載されているほか、森林総合研究所発行の成果パンフレットで公開しています。
【受賞作品名称】1) 人間の快適性に及ぼす木材の触覚、視覚及び嗅覚刺激の効果の解明(2015年受賞)、2) 「人を測る」ことにより「木の良さ」を科学する(2018年受賞)
【受賞者】1) 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所/京都大学大学院 農学研究科 森林科学専攻 生物材料設計分野、2) 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所/京都大学大学院 農学研究科 森林科学専攻 生物材料設計学研究室/東京大学大学院 農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 木材物理学研究室
【表彰部門】1)、2) ハートフルデザイン部門
【対象部門】1)、2) 調査・研究分野
【サブカテゴリ―】1)、2) 調査・研究/木材利用の人への効果・効能に関する調査・研究
作品概要
人間にとっての「木材の良さ」を、木材の物理特性を計測し、測定値から説明する従来の研究から発想を逆転させ、「人間」を測ることにより解明する研究を先駆的に進めています。
まず、血圧や脈拍、脳を流れる血液などの動態から、木材が嗅覚を通じて人をリラックスさせることやパソコン作業中のストレスを軽減することなどを明らかにしました。さらに木材の見た目や手触りによる影響についても検討を進め、手触りの影響について嗅覚と同様の手法で評価できる可能性を見いだしました。
さらに、木材の触覚、視覚、嗅覚刺激が人間の生理面・心理面に及ぼす影響を評価する手法の確立を目指して研究を進めました。触覚刺激については、木製手すりを握った際に生じるストレスは、金属など他材料と比較して低いことを示す結果が得られました。視覚刺激については、材面の全体的あるいは局所的な色コントラストが視線の引きつけやすさと密接に関係があることや、木目模様の強調や色むらなどを付ける加工をすると視線が集まる場所や時間が変化することを明らかにしました。また、嗅覚刺激については、だ液中の抗ストレスホルモン代謝産物であるDHEA-s(デヒドロエピアンドロステロン硫酸抱合体)が新たな評価指標として有望であることがわかりました。
得られた成果は、Journal of Wood Scienceや木材学会誌に論文掲載されているほか、森林総合研究所発行の成果パンフレットで公開しています。
木材の触覚刺激が人間の生理・心理面に及ぼす影響
木材の触り心地の評価では、木材への安定した接触方法が重要となることから縦型の手すり型試験体を考案し、これを用いて20代の男女被験者を対象として、目を閉じて90秒間試験体を軽く握ってもらう実験を実施しました。人の生理応答を測定するとともに、質問紙による心理評価も実施しました。
実験では針葉樹(ヒノキ)と広葉樹(ミズナラ)の違いや塗装の有無による影響を調べるとともに、木材とアルミニウムやポリエチレンとの比較も行いました。木材への接触はアルミニウムに比較して「温かい」「軟らかい」「自然な」印象を与えることが分かりました。
また、各材料に触れた際の生理的な変化を連続的に測定したところ、木材は他材料よりも触れた時の収縮期血圧(最高血圧)の上昇が抑制される、すなわち材料接触時のストレスが低い傾向にあり、特に無塗装の木材でその傾向が大きいことがわかりました。さらに、このような生理的変化には、手から材料に奪われる熱の総量が関係している可能性を見出しました。
木材の視覚刺激が人間の生理・心理面に及ぼす影響
視線の引きつけやすさに着目することで、木目模様のコントラストが見た目の好ましさに及ぼす影響を定量的に評価しました。実験では塗装によって木目模様のコントラストが種々変えられたスギ材を被験者に見てもらい、「見た目の好ましさ」を回答してもらうとともに、画像解析によってその材面の特徴を数値化して両者の関係を調べました。
木目模様の明度コントラストと見た目の好ましさの関係からは、図に示すように、好まれる最適なコントラストの存在が示唆されました。また、傷や色むら、汚れなどを人為的につけて材面を古く見せる「古美処理」をスギ材に施して、被験者の視線の動きを追跡したところ、コントラストが強調された木目模様の頂点部はもちろん、古美処理で追加された特徴点に視線が集中することがわかりました。材面への視線をコントロールする処理によって、木製品に新たな魅力をつけ加えることも可能になりそうです。
木材の嗅覚刺激が人間の生理・心理面に及ぼす影響
だ液中のさまざまな成分がストレス等により変動することに着目し、木の香りが人間に与える影響の測定手法を検討しました。実験では単調な計算作業をストレスとし、木の香りがある室内と香りがない室内で、作業前、作業直後、その後の休息中のだ液中成分を評価しました。
一例として、木の香りがある室内では、ストレスにより変動する成分の一つであるDHEA(デヒドロエピアンドロステロン)※が、同じ強度のストレスに対してより多く分泌されることが分かりました。このホルモンはストレスの影響を減らすために必要なホルモンであり、木の香りがストレスへの抵抗力を高める可能性が示唆されました。このことから、木の香りの評価においてだ液中の成分の活用が期待できます。
※DHEA-sはDHEAの中間代謝産物であり、体内ではほぼDHEA-sの状態で存在するため、DHEA-sを指標としました。
掲載情報の詳細
- 論文元/参考文献1
- 森林総合研究所交付金プロジェクト成果72「人間の快適性に及ぼす木材の触覚、視覚及び嗅覚刺激の効果の解明」 https://www.ffpri.affrc.go.jp/pubs/koufu-pro/documents/seikasyu72.pdf
- 論文元/参考文献2
- 森林総合研究所成果報告会「「木の良さ」を科学する―木材がひとの触・視・嗅に及ぼす影響」開催報告 https://www.ffpri.affrc.go.jp/news/2018/20180402kinoyosa/index.html
- 論文元/参考文献3
- 米山菜乃花,、他3名 (2016)、塗装による木理のコントラスト変化が材面の誘目性に及ぼす影響、木材学会誌、62(6)、293-300 https://doi.org/10.2488/jwrs.62.293
- 論文元/参考文献4
- 恒次祐子、他2名(2017)、木質居住環境が人間にもたらす影響の評価手法、木材学会誌、63(1)、1-13 https://doi.org/10.2488/jwrs.63.1
- 論文元/参考文献5
- Matsubara E, et al (2017), Essential Oil of Japanese Cedar (Cryptomeria japonica) Wood Increases Salivary Dehydroepiandrosterone Sulfate Levels after Monotonous Work, Int. J. Environ. Res. Public Health, 14(1), 97 https://doi.org/10.3390/ijerph14010097
- 論文元/参考文献6
- Tsunetsugu Y, et al (2021), Heat transfer, physiological responses, and subjective perceptions during short contact time with wood or other materials, J. Wood Sci., 67, 27 https://doi.org/10.1186/s10086-021-01960-0
- JWDA公開日
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の方法(連絡先) - 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所
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