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木の床が歩行感や安全性に与える影響

    木造床の「すべり」や「かたさ」に配慮すれば、歩行が安定し疲れにくく、転倒による傷害も少なくなります。

    掲載情報の概要

    疲れにくく、転倒もしにくい木造床とするためには、木材への塗装や床組、 床材に配慮し、最適な「すべり」や「かたさ」 にすることが重要です。

    塗装を施さない木質系の床仕上げは、最適な 「すべり」 になります。

    「すべり」は歩行感や運動感に大きな影響を及ぼすだけでなく、すべりが不適当な場合は疲労が増大し足腰部の傷害を発生させ ることにもなります。
    右図は、人が歩行した時、運動した時の「すべりやすさ・にくさ」(すべり抵抗)を示したものです。
    塗装を施さない木質系の床仕上げは、最適に近い範囲に入ります。
    対して、塗装した場合はすべり過ぎる場合があります。

    歩行運動の際の「すべりやすさ・にくさ」 (すべり抵抗) 出典/高橋徹ほか編 「木材科学講座5 環境 (第2版)」, 海青社, p.128 (2005)

    床の 「かたさ」 を調整することで、 傷害発生率を減少できます。

    右図は、代表的な中学11校の体育館の床を対象に、 生徒の傷害発生率 (縦軸) と床のかたさとの関係を示したものです。
    図中の+印はフローリング張りの床ですが、適度なかたさを持たせることで傷害発生率が減 少することが分かります。
    ただし、床に適度なかたさを持たせないと、床がかたすぎてもやわらかすぎても傷害発生率は高くなります。

    床のかたさと傷害発生率の関係
    出典/高橋徹ほか編 「木材科学講座 5 環境 (第2版)」, 海青社, p.125 (2005)

    木造床の塗装・塗料について

    フローリングについては、すべりにくい塗装を施したものが製造されています。
    また既存の木造床については、すべりにくくするための塗料やワックスが市販されています。
    これらを利用すれば、より歩きやすい木造床にできます。

    架構式あるいは衝撃緩衝材が施工された床は、 最適なかたさに近づきます。

    右図(左側)は、床の「かたさ」(横軸)と主観評価 (縦軸) の関係を示しています。
    履物や性別にかかわらず床のかたさには最適値があり、かたすぎてもやわらかすぎても歩行感が悪くなる事が分かります。
    また、図中の+印は木材を用いた床を示していますが、最適なかたさに近い床や、かたすぎたりやわらかすぎたりする床があります。
    たとえば右図 (右側) のよう に、架構式あるいは下地に衝撃 緩衝材が施工された床は、最適なかたさに近いことが分かっています。
    なお、非架構式では、かたすぎる床にならないように留意する必要があります。

    床のかたさと歩行感の関係
    出典/高橋ほか編 「木材科学講座5 環境(第2 版)」, 海青社, p.123 (2005)

    木の床の代表例
    出典/高橋徹ほか編 「木材科学講座5 環境 (第2版)」 海青社, p.120 (2005)


    数式* の詳細は「床性能評価指針」(日本建築学会編、丸善、2015) を参照のこと。

    床材を工夫することで、さらに衝撃吸収効果を高めることができます。

    下表に示した床材を使い、椅子を引きずったり、軽くてかたいものを床に落としたりした場合を想定した実験を行いました。
    その結果、ブナ挽板と衝撃緩衝材を積層複合化して衝撃吸収効果を高めた木質床板は、ブナ挽板に比べて、最大衝撃力が約1/4に抑えられました (下図)。
    これは、クッションフロア シートやループパイルカーペッ トと同程度の衝撃吸収効果です。

    実験に使用した床材の一覧
    出典 / 末吉修三ほか: 木材工業, 43, 112-116 (1988)
    各種床材の衝撃力波形
    出典/科学的データによる木材・木造建築物のQ&A

    掲載情報の詳細

    論文元/参考文献1
    林野庁「科学的データによる木材・木造建築物のQ&A」(Q9 P18-P19) https://www.rinya.maff.go.jp/j/mokusan/attach/pdf/handbook-24.pdf
    論文元/参考文献2
    「床のすべり評価指標および評価方法の提示 床のすべりおよびその評価方法に関する研究 (その4)」, 小野英哲, 須藤 拓, 武田 清, 日本建築学会構造系論文報告集, 356, 1-8 (1985) https://www.jstage.jst.go.jp/article/aijsx/356/0/356_KJ00004079344/_article/-char/ja/
    論文元/参考文献3
    「スポーツサーフェイスのすべりの評価方法に関する研究」, 小野英哲, 橋田 浩, 横山裕, 日本建築学会構造系論文報告集, 3591-9 (1986) https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200902087581143907
    論文元/参考文献4
    「安全性からみた学校体育館床のかたさに関する研究」, 小野英哲,三上貴正, 渡辺博司, 日本建築学会構造系論文報告集, 3219-15 (1982) https://www.jstage.jst.go.jp/article/aijsaxx/321/0/321_KJ00003749551/_article/-char/ja/
    論文元/参考文献5
    「居住性からみた床のかたさの評価方法に関する研究 (その2) 床のかたさ測定装置の 設計・試作および床のかたさの評価指標, 評価方法の提示」, 小野英哲、横山 裕, 日本建築学会構造系論文報告集, 373, 1-8(1987) https://www.jstage.jst.go.jp/article/aijsx/373/0/373_KJ00004079666/_article/-char/ja/
    論文元/参考文献6
    軽量衝撃に対する木質床板の緩衝性, 木材工業, 43, 112-116 (1988)
    JWDA公開日
    2017年3月30日