#20

木材の匂いを嗅ぐと、免疫力が上昇したとの報告があります

    人体の免疫系への働きかけが徐々に明らかになりつつあります。木材の香りは、ヒトの免疫機能を向上させる効果が期待され、将来的に健康維持・増進としての木材活用が検討されています。

    掲載情報の概要

    木材や森林の香り(フィトンチッド)には、免疫力を高める効果が期待されています。森林浴をすると、ナチュラル・キラー(NK)細胞が活性化し、がん細胞やウイルス感染細胞を攻撃する能力が向上し、この効果は30日後まで持続します。また、森林の香りは唾液中の免疫抗体(sIgA)を増やし、細菌やウイルスの侵入を防ぐ効果も確認されています。都市部と森林部を比較した研究では、森林部の方が免疫力がより向上することが示されています。

    森林や木の香り(フィトンチッド)が免疫を向上させる

     森林や木の香り(フィトンチッド)は、ストレスを軽減させる作用に加えて、様々な生理的な好作用の結果として免疫力の向上効果が期待されています。

     森林や木の香りの与える様々な作用により、免疫が向上し、NK活性(NK細胞数の増加)、抗がんたんぱく質が上昇し、がん・感染症予防効果につながる可能性が示唆されています。

    森林や木の香り(フィトンチッド)によるNK細胞活性

     男性12名、女性13名が森林浴を行ったところ、がん細胞やウイルス感染細胞を攻撃する白血球の一種であるナチュラル・キラー(NK)細胞が活性化されたという事例があります。さらに同じ事例では、NK細胞の活性は30日後も持続していた様子がうかがわれました。

     唾液中のsIgAが増加することは、粘膜免疫力を向上させ、細菌やウイルスなどの病原体が体内に侵入するのを防ぐと言われています。

     そして、都市部を散策した41名と森林部を散策した37名でsIgAの増加量を比較したところ、森林部を散策した方が有意に増加したという事例が存在します。

     これら複数の事例研究から、森林や木の香り(フィトンチッド)は、ヒトの健康増進に寄与する可能性が示唆されています。

    掲載情報の詳細

    論文元/参考文献1
    林野庁 科学的データによる木材・木造建築物のQ&A (Q2, P6-7) https://www.rinya.maff.go.jp/j/mokusan/attach/pdf/handbook-24.pdf
    論文元/参考文献2
    李卿、川田智之(2011)「森林セラピーによる「精神心理・神経系‐内分泌系‐免疫系」ネットワークへの影響」『日本衛生学雑誌』第66巻第4号,pp.645-650 https://doi.org/10.1265/jjh.66.645
    論文元/参考文献3
    Q Li, K Morimoto, M Kobayashi, H Inagaki, M Katsumata, Y Hirata, K Hirata, H Suzuki, Y J Li, Y Wakayama, T Kawada, B J Park, T Ohira, N Matsui, T Kagawa, Y Miyazaki, A M Krensky "Visiting a forest, but not a city, increases human natural killer activity and expression of anti-cancer proteins" Int J Immunopathol Pharmacol . 2008 Jan-Mar;21(1):117-27. doi: 10.1177/039463200802100113. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18336737/
    論文元/参考文献4
    H SELYE "The general adaptation syndrome and the diseases of adaptation"J Clin Endocrinol Metab . 1946 Feb:6:117-230. doi: 10.1210/jcem-6-2-117. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21025115/
    論文元/参考文献5
    Q Li, M Kobayashi, Y Wakayama, H Inagaki, M Katsumata, Y Hirata, K Hirata, T Shimizu, T Kawada, B J Park, T Ohira, T Kagawa, Y Miyazaki "Effect of phytoncide from trees on human natural killer cell function" Clinical Trial Int J Immunopathol Pharmacol . 2009 Oct-Dec;22(4):951-9. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20074458/
    論文元/参考文献6
    Q Li, K Morimoto, M Kobayashi, H Inagaki, M Katsumata, Y Hirata, K Hirata, T Shimizu, Y J Li, Y Wakayama, T Kawada, T Ohira, N Takayama, T Kagawa, Y Miyazaki, "A forest bathing trip increases human natural killer activity and expression of anti-cancer proteins in female subjects"J Biol Regul Homeost Agents . 2008 Jan-Mar;22(1):45-55. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18394317/
    論文元/参考文献7
    落合博子、杉下智彦、井上茂、益田岳、落合俊也、佐々木郁子、玉山三重子、小林和宏、川端恵美、高田裕司、小澤健三(2022)「森林浴による健康増進等に関する調査研究報告書―森林浴による免疫系への影響と内分泌系との関連-(令和4年3月)」公益財団法人車両競技公益資金記念財団支援・調査研究事業「森林浴による健康増進等に関する調査研究事業」(千葉大学:宮崎良文、宋チョロン) https://www.vecof.or.jp/wp/wp-content/uploads/2023/06/R3_森林浴による健康増進等に関する調査研究報告書-森林浴による免疫系への影響と内分泌系との関連.pdf
    JWDA公開日
    2017年3月30日

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