オフィスにおける新たな構造を有する木製家具の「効果」検証事業 成果報告書
何故、木目調のインテリアデザインが好まれているのか?
それは無機質な空間より居心地が良くて、生産性も上がると漠然と感じているからではないか?
何故、天然の木のテーブルの事例が少ないのか?ユーザーが天然の木のテーブルは価格が高いと思い込み、その価格差に見合うほどの効果があることに気が付いていないからではないか?この仮説に基づき、今回の実証実験を開始することとした。
令和2年度 内装木質化等促進のための環境整備に向けた取組支援事業
内装木質化等の効果実証事業の成果報告書
事業期間:2020年9月24日~2021年2月19日
実証実験場所:株式会社イトーキ 商品開発本部 オフィス(東京都中央区月島 4-16-13 Daiwa月島ビル 5階)
実施体制:株式会社イトーキ 商品開発本部 プロダクトマネジメント部・・山本賢二、小島勇、久保田誠、松宮一樹
株式会社イトーキ 商品開発本部 ソリューション開発部・・・・八木佳子、加藤洋介、坂本恵子
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所 ・・・・杉山真樹、白川真裕
国立大学法人東京大学 大学院農学生命科学研究科 ・・・・・・恒次祐子
実証事業の背景
背景
オフィスは白の無機質な空間から近年、木目調のインテリアデザインが好まれる傾向が続いている。
更に働き方改革、コロナウィルスの感染予防のためのソーシャルディスタンスにより独立型のデスクから大型テーブルやソファなど、働くスタイルも多様化してきた。
しかし、木目調のインテリアデザインが好まれても、天然の木のテーブルは搬入条件(エレベータサイズ)や強度・価格の面などから採用事例は少ない(弊社調べ)のが実情である。
仮説
何故、木目調のインテリアデザインが好まれているのか?
それは無機質な空間より居心地が良くて、生産性も上がると漠然と感じているからではないか?何故、天然の木のテーブルの事例が少ないのか?
ユーザーが天然の木のテーブルは価格が高いと思い込み、その価格差に見合うほどの効果があることに気が付いていないからではないか?
この仮説に基づき、今回の実証実験を開始することとした。
実証事業の概要
事業概要
実在のオフィス空間において、フリーアドレス対応の大テーブルの天板の材質の違い(単色白メラミン化粧板、木目調メラミン化粧板、クリ無垢3mm単板クリア塗装の3種)が、オフィスワーカーの勤務時の生理・心理面や集中力・発想力に及ぼす影響について、オフィスワーカーを被験者とした実証実験により科学的に検証する。
実証の種類 | 実証事業の目的 | 実証事業で設定した課題 | 課題解決の方法 |
実証1 生産性・経済面 | オフィスにおける生産性・経済性として、オフィスワーカーの集中力、発想力といった知的生産性向上が経済性を高めるとの考え方に基づき、実証実験により木製家具の導入の効果を明らかにする。 | 木製家具の導入により集中力、発想力が向上するか、オフィスワーカーを対象としたタスク実験により検証する。 | 社員18名を被験者として、天板材質の異なる3種類の大型テーブルで2週間(5日間)働く実証実験を実施。集中力を計算課題(2桁かけ算50問)、発想力をマインドマップによるタスク実験で評価。質問紙による主観評価に加えて、各条件終了後にヒアリングを実施。 |
実証2 心理面・身体面 | 木製家具の見た目・触り心地がオフィスワーカーの心理面・身体面にプラスの効果を及ぶすかについて、実証実験により明らかにする。 | 木製家具の導入がオフィスワーカーの心理面・身体面に及ぼす効果について、木材特有の効果なのか、木材の見た目だけで実現できるのか、オフィスワーカーを対象とした被験者実験により検証する。 | 質問紙法による心理評価、センサ等による生理指標の測定を実施。心理評価では、被験者本人の恒常的な心理・ストレス状態(KG式、STAI、PSS、WEMWBS)、1日働いた後のストレス・疲労感(POMS2、自覚症しらべ)、天板に関する印象・使用感等について調査。生理指標として、血圧、心拍,活動量、唾液中のコルチゾール濃度を測定。 |
実証3 新規性・新技術 | オフィスユースで木天板を持つ大型テーブルの普及が進まない理由として、天板の大きさや重量の問題があり、新構造を持つ大型テーブルの作出によりこの問題を解決する。 | 分割・連結に対応したテーブルの構造と天板の連結方法を有する無垢単板を使用した大型テーブルの試作を行い、実使用により強度、剛性を検証する。 | 天板の芯材にアルミハニカムパネルを採用することにより、天板の分割及び現場での組立作業の容易さを実現するとともに、たわみ強度を向上。横揺れに強い天板と脚の連結構造を採用し、実際のオフィスでの使用試験を実施。 |
実証実験の概要
- 被験者:月島在籍者(50歳未満)18名(男性11名 女性7名)
- 実験期間:2020年10月28日~2021年2月18日
延べ113日間コロナウィルス感染予防のため被験者を4グループに分け、3種類のテーブル(単色白メラミン化粧板、木目調メラミン化粧板、クリ無垢3mm単板クリア塗装)使い2週間で5日づつ通常業務を行い各項目の実験を以下の表のカリキュラムに準じて実施した。
実証実験の内容
実証実験の管理方法
実証実験の精度向上のため実験事務局を置き、以下の表のように日々の実験カリキュラムを各被験者が確実に実施しているか確認するとともに、被験者の体調不良や業務上の都合による実験日程の変更など柔軟に且つ確実に実験を遂行した。また以下の表はGoogle driveを活用し事業実施メンバー全員が共有し確認できるようにした。
実証実験1の成果(⽣産性・経済性)
成果の概要
集中力、発想⼒に関してクリ単板テーブル、木目メラミンテーブルおよび⽩⾊メラミンテーブルで勤務したときの結果を⽐較した結果、集中⼒に関して、作業タスク実験(計算課題)では顕著な差は認められなかったが、主観評価では木目メラミンテーブルが木目メラミンテーブル、⽩⾊メラミンテーブルより集中しやすいとする結果が得られた。発想⼒については作業タスク(マインドマップ)では、クリ単板テーブルのほうが他の2種類のテーブルよりもやや高い傾向が、主観評価では、クリ単板テーブル、木目メラミンテーブルが⽩⾊メラミンテーブルよりも アイディアが出しやすいという結果が得られた。
マインドマップによる発想力の検討
マインドマップ回答数の平均値は、統計学的に有意な差は認められない(P<0.05)ものの、クリ単板テーブル使⽤時の⽅が、木目メラミンテーブルや⽩色メラミン テーブル使用時よりもやや高かった(図1)。
主観評価による集中⼒・発想⼒の検討
執務時の集中⼒・発想⼒に関する質問紙による主観評価の結果、評価項⽬ 「(仕事に)集中しにくい―集中しやすい」において、クリ単板テーブル使⽤時の評定値は木目メラミンテーブル,白色メラミンテーブル使⽤時よりも有意に高く(P<0.05)、「(アイディアを)出しにくい―出しやすい」 の評定値は、クリ単板テーブル、木目メラミンテーブル使⽤時が、白色メラミンテーブル使用時よりも有意に⾼かった(図2)。
実証実験2の成果(⼼理⾯・⾝体⾯)
成果の概要
クリ単板テーブル、木目メラミンテーブルおよび⽩⾊メラミンテーブルで勤務したときの心理面への影響について結果した結果、木目メラミンテーブル使用時の方が木目メラミンテーブル、⽩⾊メラミンテーブル使用時よりも不安感が小さいとする結果が得られた。身体面の影響について唾液中のストレスホルモンの分析の結果、クリ単板テーブル使用時の方が⽩⾊メラミンテーブル使用時よりもストレスが軽減される傾向が見られた。
また、天板の主観評価において、クリ単板天板の⽅が他の天板よりも「落ち着く」「安⼼な」「快適な」印象を与えていた。
唾液中コルチゾール濃度によるストレス検討
コルチゾール濃度は健康な⼈で朝に⾼く、⼣⽅にかけて低くなるという⽇内変動を⽰すことが知られており、朝から⼣⽅にかけての濃度の傾き(減少率)が⼤きいほど 慢性的なストレスが低いという相関があることが報告されている。今回の実験では⽩メラミンテーブル使⽤時には使⽤前と傾きがほとんど変わらなかったのに対し、クリ単板テーブル使⽤時には傾きが⼤きくなる傾向が認められた(図3)。
心理検査による状態不安の検討
勤務後に感じている不安感について、STAI(Form X)状態・特性不安検査により評価した結果、勤務後の状態不安得点の平均値はクリ単板テーブル使⽤時の⽅が木目メラミンテーブル、⽩色メラミンテーブル使用時よりも有意に低かった(P<0.05)(図4)。
実証実験3の成果(新規性・新技術)
成果の概要
クリ単板テーブルをアルミハニカムパネルを用いた天板構造とし、イトーキ独自の連結構造を活用することで大型天板をエレベータに入るサイズに分割し組立てることを可能とした。また分解した状態から、特殊な工具を用いることなく、2人で3時間程度の作業で大型テーブルを組み立てられることを確認した。実証実験における試験体として使用することにより実使用に十分な強度やたわみ性能を有していることを確認した。
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